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神戸地方裁判所 昭和57年(ワ)63号 判決 1983年5月30日

原告

西脇亨

ほか一名

被告

岡村典彦

主文

被告は原告らに対し、各金三四〇万一、二〇二円およびうち金三一〇万一、二〇二円に対する昭和五八年一月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分し、その一は原告らの負担とし、その余は被告の負担とする。

この判決は、第一項にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告は原告らに対し、各金七五二万五、五八八円およびうち金六八四万一、四四四円に対する昭和五八年一月一九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  被告

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

原告らの長女西脇瑞妃(当時満六歳、以下亡瑞妃という。)は左記交通事故により、脳底骨折の傷害を受け、同日午前一〇時一〇分ごろ、服部外科病院で脳内出血により死亡した。

(1) 日時 昭和五六年三月二〇日午前九時二〇分ころ

(2) 場所 三木市宿原一〇七九番一号先路上

(3) 加害車両 普通乗用自動車(神戸五八す三〇〇号)

運転者 被告

(4) 事故の態様 加害車両が時速約二五キロメートルで南進中、対面歩行してくる亡瑞妃に衝突した。

2  責任原因

被告は、加害車両を自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条所定の責任がある。

3  損害

(1) 葬儀費 各金二五万円

(2) 仏壇購入費 各金八〇万円

(3) 亡瑞妃の逸失利益 各金九二六万五、九四四円

亡瑞妃は、本件事故当時、満六歳の健康な女児であるから、その就労可能年数は満一八歳から六七歳までの四九年間とし、昭和五六年度賃金センサス第一巻一表の一八歳から一九歳の企業規模計、学歴計の女子労働者の年間平均賃金一三七万九、八〇〇円に家事労働分年間三〇万円を加算して、年収額を定め、生活費控除を四〇パーセントとして亡瑞妃の逸失利益を算出すると金一、八五三万一、八八九円〔(1,379,800+300,000)×(1-0.4)×18.387(新ホフマン係数)=18,531,889〕となる。

原告らは、亡瑞妃の両親として、右金一、八五三万一、八八九円の二分の一宛を相続した。

(4) 慰藉料 各金五〇〇万円

(5) 弁護士費用 各金六八万四、一四四円

(6) 損害の填補 各金八四七万三、八〇〇円

原告らは、自賠責保険から金一、六九四万七、六〇〇円の給付を受けた。

4  結論

よつて、原告らは被告に対し、それぞれ、(1)ないし(5)の合計金額から(6)を控除した金七五二万五、五八八円(ただし、金七五二万六、二八八円の通算である。)とうち金六八四万一、四四四円に対する昭和五八年一月一九日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2は認める。

2  同3の(6)は認めるが、その余は知らない。

三  抗弁

1  過失相殺の主張

本件事故は、亡瑞妃の母である原告西脇博子において、亡瑞妃の手をつなぐなどして亡瑞妃に加害車両の進路にとび出さぬように保護すべきであつたのに、これをしなかつた不注意も原因をなすものであるから、相応の過失相殺をすべきである。

2  弁済の抗弁

被告は原告らに対し、香典の名目で金四〇万円を支払つた。

四  抗弁に対する認否

1  過失相殺の主張について

本件事故は、被告の一方的過失によつて惹起したものであつて、原告西脇博子が亡瑞妃の手をつながなかつたことに不注意はない。

2  弁済の抗弁について

原告らが被告から香典として金四〇万円を受領したことは認めるが、性質上弁済となるものではない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録および証人等目録のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  本件交通事故の発生と責任原因について

請求原因1、2は当事者間に争いがない。

二  損害について

(1)  葬祭費 各金二五万円

葬祭費(仏壇、墓碑の費用を含む)としては金五〇万円の限度で是認するのが相当であるから、原告らが損害額として請求し得る葬祭費としては各金二五万円である。

(2)  亡瑞妃の逸失利益 各金七六一万一、一一四円

成立に争いのない甲第一号証と原告西脇博子本人尋問の結果によれば、亡瑞妃は、当時、満六歳(昭和四九年七月四日生)の健康な女児であつたことが認められるから、その就労可能年数は満一八歳から六七歳まで四九年間とし、昭和五六年度賃金センサス第一巻第一表の「一八歳~一九歳」の企業規模計、学歴計の女子労働者の年間平均賃金一三七万九、八〇〇円を基礎として、生活費控除を四〇パーセントとしたうえで、その逸失利益を算定すると金一、五二二万二、二二九円 〔1,379,800×(1-0.4)×18.387(新ホフマン係数)=15,222,229〕となる。

なお、当裁判所は、女児の場合に男女格差を縮めるために、平均給与額に家事労働分として若干の加算をする考え方は採用しない。

そうすると原告らは、亡瑞妃の両親として、右金一、五二二万二、二二九円の二分の一宛を相続した。

(3)  慰藉料 各金五〇〇万円

亡瑞妃が本件事故により死亡したことになる原告ら固有の慰藉料は各金五〇〇万円をもつて相当と認める。

(4)  過失相殺

成立に争いのない乙第一号証の一二、二〇ないし二二、二四、二五、三二ないし三九、原告西脇博子、被告各本人尋問の結果によれば、本件事故現場は、南北に通ずる幅員約八・二五メートルの歩車道の区別のない道路であつて、その西側は幅員約四・七五メートルにわたつて舗装されているが、その東側は幅員約三・五メートルにわたつて舗装されていないこと、被告は加害車両を運転して右道路を北から南に時速約二五キロメートル(速度制限二〇キロメートル)で進行していたところ、左前方の道路未舗装部分を南から北に向つて幼稚園の卒園式のために対面歩行してくる親子づれの園児ら約二〇名を認めたのであるから、園児の動静に注意を払い、除行するのはもとより、警笛を吹鳴し、できるかぎり道路右側によつて園児らとの間隔を十分に保持して進行すべきであつたのにかかわらず、これを怠り、同一速度で、しかも園児との間隔をわずか六〇センチメートル保つたままで進行したため、亡瑞妃が自車進路上に走り出してきたのを約六メートルに接近して発見し、急制動をかけたが及ばず、自車左前部を亡瑞妃に衝突させたこと、原告西脇博子は、亡瑞妃とともに幼稚園の卒園式に出席するため、親子づれの園児ら約二〇名とともに右道路の未舗装部分を南から北に向つて歩行していたのであるが、亡瑞妃の手をつなぐなどすることなく、同行の知人と雑談をしながら歩行していたため、亡瑞妃が列をはなれたのに気づかず、亡瑞妃が加害車両の進路にとび出して衝突したことが認められるから、本件事故は、被告の過失に起因することが大であるけれど、亡瑞妃の保護者である原告西脇博子の不注意も否定できない。

そうすると前記(1)ないし(3)の合計は原告ら各金一、二八六万一、一一四円であるが、過失相殺の法理によりその一〇パーセントを滅殺するのが相当であるから、原告らの損害額は各金一、一五七万五、〇〇二円となる。

(5)  損害の填補 各金八四七万三、八〇〇円

原告らが自賠責保険から金一、六九四万七、六〇〇円(各金八四七万三、八〇〇円)の給付を受けたことは当事者間に争いがない。被告が原告らに対し、香典として金四〇万円を交付したことは当事者間に争いがないが、右金員が香典の名目で損害賠償の一部として支払われたものであることを認めるに足りる証拠はない。

(6)  弁護士費用 各金三〇万円

(4)の各金一、一五七万五、〇〇二円から(5)の各金八四七万三、八〇〇円を控除すると各金三一〇万一、二〇二円になるところ、本件訴訟の審理の経過、事案の難易度、認容額、その他諸般の事情に照らし弁護士費用は各三〇万円をもつて相当と認める。

三  むすび

よつて、原告らの本訴各請求は、原告らが被告に対し、各金三四〇万一、二〇二円とうち金三一〇万一、二〇二円に対する昭和五八年一月一九日から支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で正当であるから認容するが、その余は失当として棄却することとし、民訴法八九条、九二条、九三条、同法一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 阪井昱朗)

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